★いすみ市はヤブカンゾウの季節

ヤブカンゾウ2
   ユリの仲間。近縁種には、ノカンゾウ、ニッコウキスゲなど。

薮萓草と書き、豆科の甘草とは音が似ていますが、全く無関係。
7月になるとあちこちで咲きだします。多くの場合、他の雑草に紛れていますので、草刈り機で刈られてしまうのが残念です。
春の若い芽も今の季節の花のつぼみも、びっくりするほど優秀な野草料理の一品になるのに…。

万葉集の時代から「忘れ草」の名前で知られていました。
若いころ、勿忘草(ワスレナグサ)をあなたに、なんて歌が流行りましたが、こちらは忘れ草。

一日花で、日ごとに新しい花が咲き、次々に花が散るので、過去にとらわれない花とみなされ
嫌なことや未練を断ち切るにはこの花を見習えばよいと万葉の人々は思いました。

   忘れ草 垣も繁みに植えたれど 醜(しこ)の醜草(しこくさ) なお恋にけり
                       『万葉集』巻十二3062 詠み人知らず

――忘れさせてくれる草と聞いて垣にたくさん植えたのに、ちっとも効き目がなくて、あの人のことが忘れられない。なんて役に立たない草だ、なんてバカな名前の草なんだ――

次は政争に敗れて大宰府に左遷された大伴旅人の歌。巻三 334

    わすれ草 わが紐に付く 香具山の故(ふ)りにし里を忘れむがため

――忘れ草を私は腰の紐に付けている。香具山のふもとの懐かしい故郷を忘れるために――
大伴氏は天皇がまだ大王(オオキミ)と呼ばれていたころの大豪族でしたが、奈良時代になると次第に藤原氏などに圧迫されて地位が低下し、ついに左遷されます。その頃の歌二首。

   344番  あな醜 賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む
   348番  この世にし楽しくあらば来む世には虫に鳥にも我れはなりなむ


偉そうに酒も飲まずに説教垂れる人を良く見ると猿に似た顔で醜い姿じゃないか、と歌ってみたり、
楽しければ来世に生まれ変わるのに虫でも鳥でも構わないとうそぶく旅人ですが、つい寂しさに腰にヤブカンゾウを挿して、できれば昔の栄華は忘れたいと願うのでした。

やがて平城京に帰還できますが、息子の家持はさらに大弾圧を受けます。それはまた別の話。
万葉集の編纂者として知られています。その家持がまだ若いころの歌。巻四・727

  忘れ草 我が下紐に付けたれど 醜(しこ)の醜草 言(こと)にしありけり

大伴家持の歌は上記3062番を踏まえていて、同じ語句が採用されています。恋の相手は後に妻となる坂上大嬢(サカノウエノ オオイラツメ)。
名前の割には全く役立たずのバカ草じゃないかとののしっています。

万葉時代の人々にはそれほど愛され、頼りにされ、そしてののしられた花なのに
現代人は見向きもしない人が多いのは、昔の人より悩みが少なくなったからでしょうか。
いや、そうではなく、花に慰められる暇さえ見つからないからだと思います。


 

★今年も会えたネジバナ

ネジバナ
    高さ20cm程度。ラン(蘭)の仲間で、いわば芝生の雑草。

開店祝い、当選祝いなどお祝いの花といえば胡蝶蘭。
いすみ市の里山の宝といえば金蘭、銀蘭。
そして芝生に咲く蘭の花が画像のネジバナです。

雑草に交じって咲く花で、わたしが最初に見たのは勤務場所があった東京大井町の空き地。
つまり都会地でもそう珍しくありません。
最近は特に建物の周囲を公園のように植栽するビルが増え、その植栽の間からネジバナが顔を見せることがよくあります。

わたしがいすみ市のネジバナポイントとして見に行く場所も、まったくの自然状態の場所ではなく、芝生が植えられた場所です。
おそらく芝生を植える際の用土にネジバナの種が混じっていたのでしょう。

しかし芝生ゆえに管理者の都合で刈られますから、毎年見られるわけではありません。
残念なことに今年は2カ所で1本も見ることはできませんでした。

ネジバナは不思議な植物で、小さな花がねじれながら花茎に順次着いて花咲かせます。
しかも、右回りか、左回りか五分五分で、特に決まった法則はないそうです。

その小さな5mm程度の花をルーペでよく見ると確かに蘭(ラン)の仲間だと納得します。
野生の植物は、特に蘭の仲間は家で育てるのは難しいと言われています。
このネジバナも、ラン菌という特殊な菌の力を借りなければ育ちません。
いわば共生関係。
ラン菌のない所では育たず、芝や雑草と一緒に刈られてオダブツ。日照りでオダブツ。洪水に流されてオダブツ…。  

ある植物が、ネジバナが今そこにあるということは、奇跡のような偶然が積み重なってこそ、今そこにある ということなのでしょう。
おそらく人間も、わたしが今生きているということも、数多くの偶然と善意に支えられてのことなのだと思います。

ブツブツ文句ばっかり言っていないで、「感謝」 を座右の銘にしなくちゃなと思っています。


 
 

★7月2日は半夏生(はんげしょう)

ハンゲショウ
      水辺にはハンゲショウの「花」が…。

夏至から数えて11日目、7月2日からの5日間が「半夏生」です。
7月7日からは「小暑」となり、いよいよ暑さが本格化します。

その頃、水辺には白い花が咲きます。
花といっても本当は葉で、葉の一部がまるで白粉を塗ったように真白くなって虫を誘います。
本当の花は白い葉の上に穂のようになって突き出ています。
お化粧したような姿なので、「半化粧」で、ハンゲショウといいます。

どう見ても厚化粧なので、連想として、苦界に身を沈めた薄幸の女性の生まれ代わりのような感じが漂います。
おそらく、ケショウという単語がそのイメージを導くのでしょう。

仏教では母親の胎内から出生するものを胎生(たいしょう)といい、卵ならば卵生(らんしょう)。
ウジやボウフラ、カビのように湿気の中から産まれてくるのが湿生(しっしょう)。
そして、前世の業(ゴウ)により忽然と現れるものを化生(けしょう)といいます。

天女や地獄の鬼などが化生。
だけと妖怪・変化・化け物・幽霊などをいうことが多い。
つまりハンゲショウだと、半分化生の者、というイメージが出てきます。

ハンゲを人格的にとらえて、地域によってはこの時期に降る雨をハンゲ様と言って、毒の雨が降ると信じられてきました。
井戸に雨水が入らぬようにフタをしろ、とか、妊産婦に生水は飲ませるな、なども聞いています。

おそらく不衛生であった昔の人の教えとして食中毒などに気を付けよということなのでしょう。
働いてはいけないという地域もあり、これも季節の変わり目に際して過労死を諌めるものでしょう。
これから本格的な暑さが来る前の心構えを事前確認する習慣だったと思います。

ハンゲの危険な五日間を乗り切るために、地方によっては独特の食習慣がありました。
タコ(関西)、サバ(福井)、ウドン(香川県他)が有名です。

いすみ市では特別な食習慣は聞いたことがありませんが
今年はスーパーのチラシに、ハンゲショウにはタコを食べる という宣伝が載りました。
関西発祥の恵方巻のように、関東でも流行らせて一儲けしようという魂胆でしょう。


 
 

★長南町へ花菖蒲を見に行く

花菖蒲
   花びらの中央に黄色いマークがあれば花菖蒲

3万株の花菖蒲があるという 「花菖蒲園 白井田園」へ花菖蒲を見に行きました。

すでに公開期間は終わっていましたが、電話すると 「花は少しは残っている。外出中だが門は開いているのでご自由に見学してください」 というありがたいお言葉。

6月中旬ごろまでが見ごろだったようです。公開期間が終わっていたのでだれ一人いないので静かにじっくり見学できました。
花菖蒲の他にニッコウキスゲが多く、フジバカマも少々見られました。園路にはよくわからないオブジェも設置されています。
茅葺の古い家屋は絵画などのギャラリーに利用されているようです。

花菖蒲は江戸時代に品種改良がなされ、何百種類も存在すると言います。
その一端を見たかったのです。

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上記画像で示した通り、どれも黄色のマークがついていました。
下記画像のように、アヤメはそこが綾目模様。カキツバタは白で、区別できます。
アヤメカキツバタ

菖蒲は音読みでショウブ、訓読みでアヤメ。
菖蒲と書いても、ショウブとアヤメとでは全く別種ですからややこしい。

五月の菖蒲湯に使うショウブは地味な花で、アヤメの仲間ではありません。
菖蒲

花菖蒲はアヤメやカキツバタと同じく アヤメの仲間でよく似ています。
本当のショウブは、最近では葉菖蒲ということが多くなってしまいました。

花菖蒲の花は大小あり、豪華な花や清楚な花があり、色とりどり。
全国各地の 「あやめ祭」 とは厳密にいえば 「花菖蒲祭」 のはずですが
花菖蒲もアヤメの仲間だから、間違いとは言えないものの、ちょっとねという気がします。

アヤメとカキツバタ、ショウブとハナショウブ。花が咲いていれば区別はつきますが
花のない時期は難しい。
葉の形、大きさ、姿、そして陸生か湿性かで区別しますが、その話は別の機会にしましょう。
調べるなら このサイト が読みやすい。

いすみ市には葉菖蒲、花菖蒲、アヤメ、カキツバタのいずれも見ることができるので、調べているうちに、ちょっと詳しくなりました。
都会より田舎の方が良い、と思えるのは豊かな自然に恵まれているからです。

 

★アジサイの本当の花

アジサイ
   ガクアジサイの中央のぶつぶつが本当の花で、その花が満開になった

TBSのプレバトという番組に俳句ランキングのコーナーがあり、おもしろくて勉強になります。
アジサイで一句というお題で、「ヨヒラ」 がアジサイの別名だと初めて知りました。
調べてみると、ヨヒラは四片または四葩と書くようです。読めませんね。書けません。

四片の花びらと見えるからヨヒラですが、本当は花びらではなくガク(萼)です。
花のように見えるので装飾花といい、本体の花は装飾花中央のツブ状の突起です。

画像は装飾花が周囲を額縁のように取り囲んだアジサイなのでガクアジサイ(額紫陽花)。
その中央には本体のツブツブ状の突起が多数集合しており、それが花開きました。
ルーペを使って良くみると一つひとつに、萼、花弁、オシベ、メシベがそろっています。

日本原産のこのガクアジサイをヨーロッパに持ち込んだのがシーボルトさんで、欧州で品種改良されて、ヨヒラだらけになったのが 手毬アジサイで西洋アジサイとも言います。
逆輸入されて広まり、いまや鎌倉のアジサイ寺でさえ西洋アジサイの天下です。

メジャーになった西洋アジサイだって、そのヨヒラをかき分ければ、その陰にかろうじて本体の花が残っていることに気が付きます。

箱根登山鉄道ではこの時期、アジサイが見ごろで夜間はライトアップされます。
わたしがガクアジサイに初めて出会ったのが、小学生の林間学校で箱根登山鉄道に乗った時でした。
それ以来、ガクアジサイ、タマアジサイには格別の思いがあります。
いすみ市にはガクアジサイ、タマアジサイも多くて心安らぎます。

アジサイの葉には毒があることは良く知られるようになりました。
以前、未熟な板さんが大葉のごとくアジサイの葉を使い、お客さんがそれを食べて大騒ぎになりました。

アジサイにカタツムリは梅雨空に良く似合う絵模様です。
しかし、梅にウグイス、卯の花にホトトギスのごとき単なる伝説に過ぎないかもしれません。
カタツムリはアジサイの葉は食べない、という実験結果を見た覚えがあります。
もっとも葉の上を歩くことぐらいは日常的のようですが…。

そのことと関係あるのかどうか、アジサイの学名はHydrangea ハイドランゲア。
水を好むので 「水壺」 にちなんだと言われていますが、Hydra ヒドラ とは毒水蛇のこと。
ギリシャ神話で9つの頭がある不死身の怪物で、ヘラクレスによって最終的に退治されました。

アジサイも頭に多くの花をつけ、秋冬の季節になっても花は枯れ落ちない。
しかも葉に毒があるのだから 不死身の怪物ヒドラにちなんで名づけられたのではないかと密かに思っています。

花言葉は移り気、浮気、変節などマイナスイメージ強いのも、見たこともない東洋からの不可思議な花だったからではないでしょうか。
しかし、日本人でこの花を悪く言う人は聞いたことがありません。
梅雨空の下、鮮やかに咲くアジサイは日本の、日本人の心の原風景だと思います。