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★松飾りの話 


   正月を迎えるために山門に飾られた飯縄寺の松飾り

  --たまきはる命は知らず松が枝(エ)を結ぶ心は長くとぞ思ふ--  
                                万葉集巻六 1043大伴宿禰家持

――命の長さは知らない、ただこうして松の枝を結ぶわたしの心は、永遠にと願う――

冬でもけっして枯れない常緑の松、とりわけ老松は永遠を象徴し、強い生命力を宿す神々しい姿で人々の畏敬を集めてきました。
幽玄の世界を舞台にする能の背景に描かれているのはご承知の通りです。
松は永遠の命、長寿長命を祈願する植物であり、決して心変わりしない純粋な気持ち(とりわけ恋心)を象徴しました。
万葉集によく出てくる「松が枝を結ぶ」とは、二つの枝をたぶん紐で結び、二人の心が永遠に結ばれて離れないことを祈願する呪術的な行為です。
家持は緊迫する政治情勢の中で「ある人=安積親王?」と自分との絶対的な信頼関係を松に託して歌ったものですが、彼が不安に思った通り、「ある人」は病死してしまい、自身は後に逮捕され身分をはく奪されてしまいます。
古代からの名族・大伴氏は没落し藤原氏の専制政治の時代となります。
松にはそのような切実な思いが託されてきました。
そして「待つ」と同音であることから、「あなたをずっと待つ」、「あなたを永遠に忘れない」という意味を表すことになります。

墓前に松の枝を供える風習がある地域があります。死者を偲び決して忘れないという古風な習慣です。
その先祖の加護を受け、今年一年無病息災・健康に過ごし、変わらぬ一家団欒を願って新年の門松にしつらえるのでしょう。
メデタメデタの若松様ヨ~という祝い唄があり、若い夫婦の門出に歌いますが、これも変わらぬ愛情、すこやかな家族の将来を祈願し、松の持つ強い生命力にあやかれ、という意味が込められています。
そして門松に使う松は“若松”の枝を使うのが習わしです。

竹もまた常緑で冬でも枯れず、生長が早く、その旺盛な生命力は繁栄長寿、子孫繁栄のシンボルであり、めでたいものとされてきました。
地鎮祭に今でも四隅に竹を建てるのは、古来から竹や笹が神を招きよせる神聖な植物だと考えられてきたことによります。
正月はその年の神様(歳神)を迎える行事ですから、どうぞ我が家にお越しくださいの意味を込めて門松に使います。

松も竹も常緑ですから、寒さに負けぬ花“梅”をそえて松竹梅の三種類としました。三は縁起の良い数と考えられていましたから。
もっとも2013年の元旦は旧暦の11月20日です。新暦の正月にはまだ梅の花が咲いていません。これは困った。
それで千両や万両、あるいは南天(難転)という赤い実の植物でしかも縁起の良い名前の植物をそえて“花”とする場合もあります。

川崎では雄松、雌松に輪飾りという簡略式門松を飾る家が多いのですが、いすみ市ではそれさえもあまり見かけません。K’s電〇という大手の店でもまだ何も飾っていないのは驚きです。経費削減だとしてもちょっとさびしい。

何有荘では毎年その辺に繁茂している竹を切りだし、買ってきた松と輪飾りで正月を迎えます。
松飾りをするのが永年の習慣ですから、千葉県に来ても正月が近くなるとそうしています。

 
  

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