★砂鉄精錬の守護仏――東浪見寺 

 
 県指定特別天然記念物の原生林に囲まれた本堂

今はサーファーでにぎわう砂鉄の海岸・東浪見(トラミ)海岸から西へ、山の中に「軍荼利山(グンダリサン)東浪見寺(トラミジ)」があります。平安初期・大同年間(806~9)の創建と伝えられる天台宗のお寺で、ご本尊は平安末期作の秘仏「軍荼利明王(グンダリミョウオウ)」です。
 軍荼利明王画像(Wiki から転載)
軍荼利明王はインド系の神できわめて奇怪・グロテスクなお姿で、蛇を身にまとっている点で他の明王と区別できます。 蛇と刀剣はヤマタノオロチ伝説に見られるように特別な関係があり、金属精錬技術者が信仰しておりました。 

明治初期の暴力的な廃仏毀釈運動で仏教は弾圧され、修験道は邪教として禁止されます。
東浪見寺も存亡の危機を迎え、当時の住職はなんとか伝統を守るために、「寺ではない。神社だ」と強弁して鳥居を立て、軍荼利明王の8本の腕のうち6本を切り落として「日本武尊像」とし、寺の名前を「東大神」と改称したと伝えられています。
寺として認められたのは明治27年、東浪見寺として名実ともに復活したのは昭和17年だそうです。
鳥居をくぐり、深山の趣がある苔むした急こう配の208段の階段の先に、狛犬が控え、しめ縄を張った禅宗様式の本堂があります。神社とお寺が混ざり合った不思議な雰囲気のお寺です。

砂鉄や鉱石から鉄が生み出され、鉄製品ができるという作業は危険な重労働であり、まるで手品のような摩訶不思議な自然の妙技ですから神仏の加護が必要であり、神仏の恩恵でもあります。深い山々を渡り歩き、加持祈祷で火を操る修験者は自然を知り尽くした山師であり、製鉄関連技術者でもあったのです。
軍荼利明王を本尊とする東浪見寺が古い時代には砂鉄関連産業に従事する人々の守護寺院だったこと証明するためには、内房の鹿野山神野寺(カノウサンジンヤジ)が参考になります。

神野寺は房総では有名なマザー牧場という観光地の隣にあり、東浪見寺と同じく軍荼利明王を祀っています。以前、無届で飼育していたトラが脱走したことで話題になりました。このお寺が房総の軍荼利明王信仰の中心地です。
交通アクセスはアクアラインを使えば「金田」下車、フェリーを使えば「金谷」下船で、どちらも「金」がつきます。「金」は金属の意味で、goldではありません。砂鉄の海岸なのです。
「かのうさん」だって深読みすると「金生山」となります。この地域一帯、いかにも古代金属関連の土地柄であったことを今日に伝えています。

この寺には日本武尊伝説があります。
日本武尊が東征の際、先住民の豪族・阿久留王(アクルオウ、別名「悪路王」)と鹿野山山麓で激突し、敗れたアクル王は八つ裂きにされます。
王の血で三日三晩にわたって赤く染まった川が血染川(現・染川)。それが腐って海に注いだ地が血臭浦(チグサウラ=現・千種海岸)だそうです。
鹿野山の別名は「鬼泪山・キナダヤマ」。大和から見れば房総の抵抗勢力は「鬼」扱いです。
鬼が降参して泣いて謝ったので鬼泪山。降伏者を斬殺したのが日本武尊です。
血で赤く染まった川とは常識的に考えれば、鉄の赤錆で染まっていたのでしょう。
 (※ 泪をナダと読むのは沖縄の「なだそうそう」のナダと同じで興味深い)

鹿野山東峰には日本武尊をご祭神とする白鳥神社、中峰に神野寺、西峰に春日神社があります。日本武尊の死後、白鳥が鹿野山上空を舞ったという伝説もあります。
バラバラにされた王の胴を葬った場所が阿久留王塚で、大和勢力はよほど阿久留王虐殺に後ろめたさがあるのか、復活を恐れてか、今でも毎月1回の供養が神野寺と地元製鉄関連企業によって行われているとのことでした。
神野寺の地元・君津も砂鉄の海岸であり、今では新日鉄の最新鋭工場があります。

内房の神野寺の場合を見ると、東国の鉄資源強奪が日本武尊東征軍の大きな目的だったことがはっきりわかります。
外房の東浪見寺の場合、日本武尊と地元勢力の武力衝突は伝えられていません。
神話的には、弟橘姫の同族が支配する砂鉄海岸だった からかもしれません。
後に本尊を日本武尊だと言いはったのも何らかの伝承があったのでしょう。近くに 白鳥伝説 があります。
金属技術加工集団が信仰する軍荼利明王が本当の本尊で、天台・真言密教と関連する修験者・山伏の修業の場となる深い山や川があります。海砂鉄が目の前にあることを考え合わせれば、東浪見寺は「外房における神野寺」と位置付けることが可能です。

廃仏毀釈(ハイブツキシャク)運動の中、東浪見寺の古い資料がほとんど無くなってしまったことは残念なことです。天皇を中心とする国家神道確立の狂信的な運動のために古代日本の真の姿が見えなくなってしまいました。
しかし状況証拠を積み上げてみると、東浪見寺はかつて金属関連の人々の守護寺院として栄えたことがぼんやりと浮かんでくるのです。

 
 

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