★ 天狗様の昼寝 

 
     江場土の金毘羅(コンピラ)堂 
     屋根両端の鴟尾(シビ)が寺の格式の高さを示している 

いすみ市は房総でも天狗様(飯縄権現)が濃密な地域です。
天狗様は山奥に住んでいるのかと思っていましたが、いすみ市ではにぎやかな平地にも出没していたようです。
いすみ市江場土にある日在山(ヒアリサン)金毘羅堂も天狗様に関係があるお寺です。
ここには蒋介石の 「以徳報怨」の石碑 もあります。
金毘羅様は、「廃仏毀釈 ハイブツキシャク」という明治新政府による宗教改革が断行される以前は金毘羅大権現という神仏習合の神様=仏様であり、天狗様の一族に連なりました。
以下、金毘羅堂に伝わる伝説です。

―――江戸時代も末の頃の話です。大風が吹き荒れ、金毘羅堂の屋根の一部が損傷しました。村人たちは集まり、「しょうがない、境内の大松を切って資材にしよう」ということになりました。
この大松の周囲は大人が3人~5人手を広げて囲むことができるほどだった。そんな大木を切るのは容易ではありません。村一番の樵(キコリ)である新町の与兵衛が呼ばれ、与兵衛は張り切って自慢の斧(オノ)を振りかざしました。
カーン、カーンと大きな音が響き渡り、大松が揺れます。その時です、大松の上から長い手がにゅるりとのび、与兵衛の襟(エリ)をつかむと大松の上の方に引き上げてしまいました。
与兵衛は何が何だかわからず「助けてくれぇ~」と叫ぶと側に天狗様がいました。
「与兵衛、なぜ木を切る?」
「ヘッ、金毘羅様の屋根を直すためです」
天狗は「フン」というと突然木を揺らし始めましたから、与兵衛は振り落とされないように必死です。
「わかったか。ここはワシの昼寝の場所だ。おまえのせいで目が覚めてしまったぞ」
「わかりました、わかりました。もう二度とこの木に手出しをしません」
「約束だぞ。忘れるな」というと天狗様はどこかに消えてしまいました。
与兵衛は夢かと思いましたが現実は高い高い木の上です。
「助けてくれぇ~」と叫び続けてやっと住職らに助けられました。
話を聞いた住職らは「天狗様には申し訳ないことをした」と大松にお神酒(ミキ)をかけて祈りをささげました。
すると与兵衛に傷つけられていた大松はスウッと元の大松にきれいに戻ってしまいました。―――                       『いすみの民話』より採録

この大松は残念ながら戦時中に切り倒されてしまったそうです。その頃はもう天狗様はいなかったことになります。

ご承知のように金毘羅様は船乗りたちの神様ですから、外房の漁師たちからも絶大な信頼を得ており、日在山金毘羅堂はかつては日本三大金毘羅様と讃えられたそうです。今は往時を偲ぶべくもなくひっそりと静まり返っていました。
しかし今でも3月の縁日には多くの信者が集まり、ほら貝が鳴って護摩がたかれます。
そのにぎやかな様子から察すると、おそらく昔は大勢の山伏たちも参集したはずです。天狗様を信じ、天狗様の修業をするのが山伏たちです。
山伏たちの信仰を修験道と言いますが、明治政府によって仏教から分離され、禁教処分となりましたので、天狗様もあいそをつかせて、どこかに隠れてしまったのでしょう。

修験道が復活するのは、天皇の神聖神話が崩れ、信教の自由が保障された戦後になってからの話です。

 

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