★蒲(ガマ)の原は何やら魅力的だ

ガマ
   耕作放棄地が蒲の原になりつつある

数年前まで田んぼだった場所なのに、最近、稲は植えられていません。
夷隅川河口に近いせいでしょうか、耕作放棄地には葦原が茂り、中には蒲の群生も目立つようになってきました。

蒲と言えば、大国主命(オオクニヌシノミコト)と素兎(シロウサギ)の話が有名です。
ところがこの有名な話のほかには、蒲がからんだ物語はほとんど存在しないのです。
やっと見つけたのが「日本書紀」の景行紀五十三年の条。

―――日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の足跡を偲んで父・景行天皇が房総半島の安房の国に来た時、カクカクと鳴く鳥を見たいと海辺に出たがわからなかった。
かわりにハマグリを得た。そこで膳臣(カシワデノオミ)の遠祖である磐鹿(イワカ)六鴈(ムツカリ)が、蒲をたすきにして、調理して出すと、いたく気に入り、以後、朝廷の調理担当者に抜擢された―――

調理したムツカリさんを神様として祭る神社が千葉県にあります。
外房の千倉にある 「高家(タカベ)神社」 で、和食料理の神様として、その祭礼の日には調理師学校の生徒さんやすし職人など多くの板さん修行の人々で埋まります。

古式ゆかしく烏帽子(エボシ)に直垂(ヒタタレ)姿、白い襷(タスキ)もりりしく、素材にはいっさい素手では触れず、左手に箸、右手に包丁で魚をさばく場面をTVで見たことがある人も多いことでしょう。

わたしが注目したのは、「蒲をたすきにして」(原文:以蒲手繦)という伝承です。
蒲の穂がタスキになるわけがありませんから、これは蒲の葉を使ったものでしょう。
蒲の葉を干して乾燥させ、再び湿り気を与えて叩いてしなやかにし、ひも縄状に仕立てたものでしょう。

現代でもワラ縄は祭礼の必需品ですが、その素材の多くは麦や稲。あるいは葦の葉。
その昔、江戸時代は葉が長くて丈夫な真菰(マコモ)が使われました。
もっと大昔には蒲が使われたとは驚きです。

蒲(ガマ)はカマと読む場合があります。蒲田、蒲原など。
蟹(カニ)を地元の人や東北の人はガニと濁って発音します。
つまり、ガマ=カマ、カニ=ガニで、濁音でも清音でも同じこと。

ところでカンバラ蒲原を神原と書く場合があります。
すると カマ蒲(kama)とカミ神(kami)は発音上で近似語、類語。

お酒を神社に奉納するときは古式ゆかしく、コモカブリで奉納されます。
コモは稲莚(イナムシロ)のことですが、コモは komo 。

この話をまとめると、gama=kama=kami=komo と連鎖することに気づきます。
擬音語にカラコロがありますが、アとオは交代可能。

その点でも、カマとコモは アとオの母音が交替しただけの近似語の可能性があり、
コモやムシロは稲作伝来以前の大昔は、ガマの葉で作ったのではないかと、勝手な想像を膨らませて楽しむのは門外漢ゆえの特権です。

ムツカリさんが当時普及し始めたワラ縄ではなく、古来からの蒲縄のたすきをかけて調理したのは、神に対する供物と同じような最上級の作法で調理した、ということになります。

蒲の原は人を引き付ける魅力があり、物の怪が出てきそうな怪しい雰囲気もあります。
そういう霊力を当時の文明の力で縄にない、それをたすきにして調理した料理はさぞおいしかったことでしょう。


 
 
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