★卯(う)の花の匂う垣根に

卯の花
      今の季節は卯の花が満開だ

今日はまるで夏のような暑さとなりました。
卯の花は満開で、文字通り 夏が来た という気候です。

   夏は来ぬ (佐々木信綱 作詞 小山作之助 作曲)

  卯の花の、匂う垣根に
        時鳥(ほととぎす)、早も来鳴きて
             忍音(しのびね)もらす、夏は来ぬ

この歌詞はおかしいと常々思ってきましたが、最近、これで良いのだと考え直すようになりました。

卯の花とはウツギの花のことで、各種ありますが画像の花が一般的でしょう。
強剪定に耐えるので、垣根として植栽される場合があります。
垣根一面に真っ白な花が咲いたらさぞ見事なことでしょう。
しかし、ウツギの花は香りなどないので、垣根が匂うわけがありません。

だけど、美しさにあふれている場合、それを『匂う』と表現する場合がありました。香りがただよう――だけが匂うの意味ではなかったことに最近気づきました。

   広辞苑第五版 『匂う』 ⑤生き生きとした美しさなどが溢れる

卯の花の匂う垣根とは、卯の花が満開に咲きほこり、その明るさが周囲に溢れ出て広がるような素晴らしい垣根という意味に解釈できます。

次に、卯の花であろうとなかろうと 垣根にホトトギスが来て鳴くなど実際にはありえません。
ホトトギスは山の木の枝にとまり、なかなか人前に姿をみせません。
太東埼でも鳴いていますが、まだ姿をみたことがありません。

しかし、卯の花とホトトギスは万葉の昔からセットで詠まれてきたという実績がありますから、その実績を踏まえた歌詞だということで、まぁこれでもいいかと妥協しました。

卯の花の匂う垣根に、の「に」の解釈ですが、普通はこれを at the fence と理解しますが、
これを the fence and で解釈できないこともありません。
庭の垣根と山のホトトギスを並列に並べ、庭に夏が来た、山にも夏が来たと並列に叙述したと考えられます。
りんごとミカンを、りんごにミカン といい変えることができますね。

「に」は at の意味と and の意味があります。
そう考えれば、垣根にホトトギスが飛んできて鳴いた、と解釈するのは間違いで、
“卯の花の匂う垣根と(山には)ホトトギス”、両方そろってもう夏が来たんだなぁと詠嘆した歌詞だと理解することが可能です。

なぜホトトギスと卯の花がセットか、というと
渡り鳥ホトトギスの初鳴きの頃と卯の花の季節が重なるからでしょう。
そして山のウツギの木にホトトギスが止まって鳴くということはありうる話です。
ホトトギス--夏になったね。卯の花――夏になったね、というダブルイメージです。

旧暦4月はご承知のように卯月。卯の花の月と名付けられています。
本日(5/22)は旧暦卯月16日。
もっとも花札の4月は、藤にホトトギスですが、なぜ卯の花ではなく藤なのかはまた別の話になります。
大切な点は、花札でもホトトギスは卯月に描かれている点です。

ホトトギスは盛夏でも「東京特許許可局」と大声で鳴いています。
しかし、4月の初音が最も価値が高かった、待ちわびていた初音だから卯月とホトトギスはセットで語られてきたのだと思います。

さて、最後の疑問は、ホトトギスの忍び音です。
忍び音といったら、我慢してすすり泣くイメージですね。
ところが実際には昼でも夜でも鳴くときは大声で、東京特許許可局です。
どこが忍び音なのでしょうか。

わたしは答案を二つ用意しました。
一つは、ホトトギスの仲間でホトトギスとそっくり相似形のツツドリの鳴き声をホトトギスの忍び音と誤解した--です。
ツツドリは鼓鳥で、夜遅くあるいは早朝に、その鳴き声は、ポッ、ポッ、ポと断続的で奥ゆかしい。忍び音と聞こえなくもない。

二つ目の答案としては、実はホトトギスは五月の鳥と理解されていた形跡があるのです。

    郭公(ホトトギス)待つ心のみつくさせて聲をば惜しむ五月なりけり (西行)
    五月闇おぼつかなきに郭公ふかき峰より鳴きていづなり (源実朝)

五月がホトトギスの季節なのに、まだ4月だから少し遠慮して鳴く、それが初音であり忍び音であるという観念上の産物である、が結論です。
実際には少しも遠慮しないで深夜でも早朝でも大声で鳴くのですが、昔の人は、あぁホトトギスの忍び音だね、と理解したのだ、と思います。
現代人とは違う感覚だから、それを批判するのではなく、素直に受け止めれば良いだろうということです。

それにしても 解説がなければ、この歌詞は???の連続です。
佐々木信綱先生は教養がありすぎる。
長い間、おかしな歌詞だと思ってきましたが、それはこちらが浅はかだったからのようです。
ようやく歌詞の疑問を解決できたような気がしています。

長い文章、お付き合いありがとうございました。


  
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