★九十九里浜は玉浦(タマノウラ)(8) 


 いすみ市の民芸品、ワラ細工。甲羅に海藻が付き、蓑亀(ミノガメ)という縁起の良い亀。
 蓑亀は長い年月を生き抜いた亀であり、不老長寿の象徴として畏敬の対象だった。

浦島太郎伝説の続きです。
太郎はふとしたことから亀姫と知り合い、相思相愛の仲となり3年を海王の宮殿で過ごすが地上に戻りたいと言い出しました。

海王の宮殿とは何か?
古い伝説では、「綿津見(ワタツミ)の宮」、つまり文字通り海王の宮殿ですが、伝承によっては「蓬莱山(ホウライサン」=不老不死の理想郷として語られています。
おとぎ話の「竜宮城」が一番有名ですね。それは龍の棲む宮殿。海王の正体は龍である、あるいは海の支配者は龍であるという伝説に基づきます。
仏教では海の龍を五大竜王、あるいは八大竜王、または東海竜王としており、外房の寺院の多くは竜王を祀っています。
“波の伊八”で有名な飯縄寺の『翼を持つ龍』の欄間彫刻は見事です。
蓬莱山も竜宮城も古代中国の神仙思想に基づきます。

いずれにせ、普通の人間がいる場所ではありません。
太郎は亀姫に“選ばれた男”だから3年も海王の宮殿で暮らしました。魔界の女に閉じ込められたと言ってもよいかもしれません。
ところが異界の食べ物を食べ、快楽の3年間を過ぎても異界の住民になりきれなかった。
不老不死の幸福な世界――理想世界では生老病死のストレスがない。食事の心配はなく権力の圧迫もない。ところがストレスがないことがストレスになる。
そのストレスを感じなければ太郎は徐々に人間性を喪失し、人体はしだいに亀の姿に変わり、万年の命を保障され、亀姫様と末永く睦まじく暮らせたことでしょう。

「両親が心配しているだろうから、ちょっと地上に行ってくる」と語った太郎に対して亀姫はどのように感じたでしょうか。
裏切り者め!! ということでしょうね。身も心もつくし、これ以上ないという歓待をしてきたのになぜ私を捨てるのか、何が不満なのかという怒り、悲しみ、恨みが渦巻いたことでしょう。

おとぎ話・浦島太郎を読んだ子が不思議に思うことがあるそうです。
亀を助けて良いことをしたのに、なぜ結末は老人になるという不幸な話なのか。
おとぎ話では原話にあった「太郎と亀姫の夫婦生活」が省かれており、夫婦別れのいざこざが想像できません。玉手箱が亀姫の復讐の宝箱であった点が不明瞭なのです。

それでも亀姫は最後の望みを玉手箱に託していました。
「もしも再びわたしに会いたければ決っして玉手箱を開けるな」と念を押したのです。
しかし、太郎は約束を破って開けてしまった。
太郎の裏切りが確定した瞬間に、太郎はそれまでの甘い生活の清算を迫られたのでした。
それは3年間の生活ではなく、300年間だった現実に立ち向かえという亀姫からの手切れ状といって良いでしょう。
幽閉され、殺されなかっただけマシでした。
以後、人間界と綿津見の宮殿との通い道は永久に閉ざされてしまいます。

この海王宮殿からの帰還物語ははるか昔、人類が初めて海辺に住み、海産物を利用し始めた頃からあった話ではないかと推測しています。
人間の誕生以前から海亀は浜辺に上陸して産卵をしておりました。
海亀は手足を持ち、優しい顔をしています。海亀はどこから来るのか、きっと綿津見の都があり、そこから来るのさ、その都は海のはるか彼方、不老不死の幸福な世界に違いない――と想像を重ねてきました。

亀姫様と一緒だと幸福になるという考えは古くずーっと長く、今日まで続いています。
徳川家康の娘の一人は亀姫といいました。
縁起物の熊手にはオカメの面が飾られています。
オカメは漢字で阿亀。オカメの別名がお多福。器量良しかどうかは問題ではありません。
1973年から長期連載中の漫画「浮浪雲・ハグレグモ」では主人公の奥さんの名は「おかめさん」。
明るく元気で前向きで、あまり考えずくよくよしない女性として描かれています。
「鶴は千年亀は万年」の今日的なアレンジはドラゴンボールの亀仙人。

日本列島に住む人々は昔から亀に親近感を抱き、神秘性を感じてきました。
千葉県銚子の川口神社には無数の亀の慰霊碑があります。
――ひょっとするとあの亀は拉致された若者のなれの果てかもしれない――
大原の漁師さんは亀が網にかかるとお酒を飲ませて海に帰してやると言っていました。
現代でも海亀は別格扱いなのです。

 松尾大社:木造神像女神坐像。画像元→●
どことなく亀に似た海の女神・市杵島姫命(イチキシマヒメノミコト)。
同社はお酒の神様であり、境内に霊亀ノ滝、亀ノ井の名水があり、亀と酒は古来から縁が深い。

                                           続きは次週金曜日。

 

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