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★九十九里浜は玉浦(タマノウラ)(10) 


  まるで竜宮城のような神社は安徳帝を祀る赤間神宮。画像元
  安徳帝は壇ノ浦で、波の下にも都はあるという二位の尼に抱かれて8歳で入水。

<海幸彦・山幸彦>の続きです。
―――“海の老人”の教えに従い、山幸彦は失われた釣針を求めて海王の宮殿(竜宮城)に着く。
そこで海王の娘・豊玉姫に出会い、二人は相思相愛の仲となり3年の月日を過ごす。やがて山幸彦は釣針の件を思い出し、憂い顔となる。海王の計らいですべての魚が集められ、鯛の口に釣針が刺さっているのが発見され、山幸彦は地上に戻ることになる――

浦島太郎の場合、海王宮殿の生活に「あきた」から地上に戻るという自分勝手な論理だったので玉手箱を持たされてしまいました。
山幸彦の場合は「釣針を回収して海幸彦に返す」という目的があったのに、甘い生活におぼれて3年も過ぎました。ようやく釣針の件を思い出し地上に戻る山幸彦に豊玉姫は内心どれだけ不満があったとしても文句は言えません。

別れたくない豊玉姫の切り札は「わたしはあなたの子を宿している」でした。
豊玉は「地上であなたの子を産むから産屋(ウブヤ)を用意せよ」と要求します。

これは当時の社会通念からするとかなり無茶な要求です。
平安時代まで男性はあちこちの女性宅を訪れて夜を過ごし、生まれた子は女性宅で育てられる習慣がありました。
いやいやそんな昔の話ではなく、昭和のある時期まで田舎では“夜這い”の習慣が残っていました。
現代でも妊娠したら出産は実家のある田舎に戻ってという女性は多くいます。

たぶん山幸彦は地上まで押しかけての出産をうとましく思ったのでしょう。お産のためだけの建物=産屋の建設にあまり乗り気じゃなかったようです。
ところがある嵐の晩に豊玉姫は妹・玉依姫を介添えにして地上に現れ、
「これからお産となるが、海王の娘として元の姿に戻るから決してのぞくな」と念を押します。
産屋は建設途中でまだ隙間だらけでした。

そこで山幸彦は約束を破りのぞき見をしてしまいます。
これは「見るなのタブー・禁忌破りの神話」の典型的な例です。
機(ハタ)を織る女房(実は鶴)の姿を見てしまう「夕鶴」をはじめ、たくさんの例があります。

さて、山幸彦が見たのは巨大なサメがのた打ち回って子を産む姿でした。
山幸彦は恐れて逃げ出し、豊玉姫は恥と怒りに震え
「アンタの子だからアンタが育てなさい」
と言い残して海洋に去っていきます。
そして地上と海王の宮との通い路は永遠に閉ざされてしまいます。

なんとなく恐ろしい話の展開ですね。
山幸彦は軽薄な男で、興味本位の衝動を抑えきれない性格のようです。
愛妻であれ誰であれ、プライバシーは尊重するという考えはまったくなく、そのような人物は現代社会にも数多くいます。
携帯でスカートの下から撮影するとか、彼女の携帯を盗み見るとか、見せろと強要したり…。
プライバシーという概念がなかった神話時代でさえ、人はプライバシーを侵害されると怒るのです。
それが素直な人間性です。だから豊玉姫の怒りは正当なものです。

ローマ神話では、月の女神(ディアナ)の裸体をふとしたきっかけで見てしまったアクタイオンは鹿の姿に変えられ、しかも自分が連れていた猟犬にズタズタに食い殺されてしまいます。
憲法にプライバシーが書かれていようがいまいが、プライバシー尊重は人として守るべき道なのです。欧米は神話時代から厳しい。

その点で日本は甘い。妻が鶴だったと知った与兵衛(ヨヒョウ)は妻に去られて呆然とするだけで特別な罰は受けません。
山幸彦も特別な罰を受けません。しいて言えば「女房に逃げられ赤子が残された」でしょうか。
神話では玉依姫が子育てするのですから山幸彦の負担はまったくないと言っていいでしょう。

浦島太郎にはない海王の姫の妊娠出産物語は天皇家の連綿たる家系を説明するために挿入された“異類婚姻神話”です。
男が約束を破ることによって婚姻は破たんし、人間界と異界との通い道は閉ざされます。

『古事記』『日本書紀』の編著者は<浦島太郎>を下敷きにして、あれこれの部族の神話・伝承を寄せ集めて一本の物語<海幸彦・山幸彦物語>に仕立て上げました。
その結果、多くの人はこの天皇家伝説が<浦島太郎>の焼き直しだと気がつきません。

生まれた子の名前はウガヤフキアエズ。
正しくは天津日高日子波限建鵜草葺不合命。アマツヒコ ヒコナギサタケ ウガヤフキアエズノミコト
地元の玉崎神社のご祭神であり、彼が神武天皇の父親になります。
さて、綿津見の宮での3年間は<浦島>では300年間でした。では山幸彦の場合は?

                                       来週金曜日につづく。

 

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