★九十九里浜は玉浦(タマノウラ)(5)


   玉依姫がウガヤを育てる図 絵本「玉前さまものがたり」より引用

上総一ノ宮・玉前神社では玉依姫(タマヨリヒメ)を主神としています。
玉依姫は海神・綿津見(ワタツミ)の大神の娘であり、姉・豊玉姫と山幸彦との愛児であるウガヤの育ての親であります。
ウガヤが長じてからはウガヤと結ばれ、神武天皇を出産することになります。
こうした由緒があるので、古くから安産・子育ての神として絶大な信仰を集めてきました。

 ※ウガヤは天津日高日子波限建鵜草葺不合命(アマツヒコ ヒコナギサタケ ウガヤフキアエズ ノミコト)が正式名。
  長たらしいのでウガヤフキアエズ、あるいは単にウガヤと略称。

この物語は『古事記』『日本書紀』に語られていますが、子細に検討すると現地の感覚は教科書的な神話からは微妙にずれています。

前回まで玉前神社は【太陽・月・海洋】を神と信じる海洋漁労民族の神社であり、その秘宝は紅白二つの玉、すなわち琥珀と真珠だと述べてきました。
玉前神社では、そうはっきりと主張しているわけではありませんが、【太陽と海洋が結婚し、月が子を育てた】と考えているようです。

玉依姫は、育児放棄した姉の豊玉姫に替って地上に来たのですから、玉依姫も豊玉姫同様にその本体はサメのはずなのに、玉前神社では

  太陽:赤:琥珀:日の皇子:山幸彦、そして子のウガヤ。
  海洋:青:サメ:海の女神:豊玉姫――山幸の妻。ウガヤの実母。
  月 :白:真珠:月の女神:玉依姫――豊玉の妹。ウガヤの継母。ウガヤの妻。神武の母。

海洋は日月を含む万物の母と考えられ、豊かな海の恵みを象徴する“豊玉姫”という名称は「海の女神」にふさわしいものです。
玉前神社グループに属する中原にある玉崎神社は豊玉姫を祀り、「妹筋に当たる一ノ宮・玉前神社より本来は格が上だ。玉前神社の元宮はここだ」と鼻息が荒いのも、漁民ならではの【海の女神】信仰の伝統が代々引き継がれてきたからでしょう。

さて玉前神社では『古事記』にある豊玉姫の歌をクローズアップしています。

    赤玉は 緒(オ)さえ光れど 白玉の 君が装いし 貴くありけり  

赤玉と白玉が出てきますから玉前神社にぴったりの歌です。
通常の現代語訳は 「紐まで光り輝く赤玉をまとい 白玉のような貴方はいっそう尊く思えます」

「玉の緒」とは「命」の暗語。光り輝く玉の緒とは生命力がみなぎっているさまを示します。
赤玉ネックレスを身に着けているのは男性で、この歌は本来はここに登場する歌ではなく、男女の恋愛歌であったはずですが、まぁそれはさておき、

玉前神社では赤玉を赤ちゃん(ウガヤ)、白玉を玉依姫だとし、「玉依姫が元気な赤ちゃんを抱いている姿はとてもすばらしく尊い」としています。
画像はそれを示しており、玉依姫とウガヤの二柱を玉前神社では祀っています。
赤玉のネックレスをまとい、赤玉の赤ちゃんを抱いた月の女神の清純さと深い愛情―――この絵から思い浮かぶのは聖母子像で、あたかも聖母マリアとイエス キリスト。
父親不在、不必要、どこにも描かれていません。

聖母子信仰はギリシャやアフリカなど、キリスト教以前の古代世界では普遍的な信仰でした。
海を万物の母とする聖母子信仰はまことに日本の古代海洋漁労民にはふさわしい信仰です。
玉前神社は原始的聖母子信仰が基底にあったとみて、まず間違いないでしょう。
                                 来週金曜につづく

 

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