★春の野のスミレ 


   たぶんタチツボスミレ(立坪菫)

早春の里山にスミレが一株咲いていました。
スミレの種類はとても多く、種の区別がなかなか難しい。この里山でも何種類か確認していますが、ほとんどタチツボスミレです。
立坪の「坪」とは「坪庭」という単語があるように、庭の一区画という意味でしょう。
庭にも咲くスミレだから「坪菫」。
花が咲き終わると株全体が大きく成長して立ち上がるので「立坪菫」。
大きくなると可憐なという印象からはだいぶ遠くなります。

   春の野に 菫つみにと 来(コ)し我そ 野をなつかしみ 一夜(ヒトヨ)寝にける
                                       万葉集8-1224 山部赤人

スミレを摘みに来たが春の野の素晴らしさに心を奪われ、帰りそびれて野宿してしまった――と読めますが、寝袋を用意していても春の夜を野宿するのは寒すぎる。
ホームレスじゃあるまいし、最初は日帰りの予定だったが近くの宿で一泊した、のが実情ではないでしょうか。おなかもすきますしね。
それほど苦労してスミレを摘んだのですよと意中の人に言いたかったのでしょう。

赤人はなぜスミレを摘みに来たのでしょうか。
万葉の時代にはスミレを摘む習慣がありました。若菜摘む習慣の一種です。春の菜は精気にあふれ健康に良いとされていました。実際、薬用植物の一種に指定されています。
また現代でもエディブルフラワーとして利用されています。
意中の人に美容と健康にスミレをどうぞ、とプレゼントしたのでしょう。

   山路きて なにやらゆかし 菫草(スミレグサ)       松尾芭蕉(野ざらし紀行)

こちらの句の方が好きですね。
あらゆる説明を省いた率直なつぶやき、それが万人の心を打ち、共感を呼びます。
どうしてこんな所にこんな美しい花がひっそりと咲いているのだろう、
人に知られないでも嘆きもせず、恨みもせず、無駄なあがきもせず、そんなことは関係ないよ、自分がしっかり生きればいいんだよとお説教もせず…。

野の花にも美しさを感じ敬意を表する、そんな感性を持ち続けたいものです。

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